真空ポンプは、空気やガスを排気して真空環境を作る装置で、製造業や研究開発の現場など幅広い分野で使用されています。特に半導体、医薬品、食品、分析装置などの用途では欠かせない存在です。
ただし、使用目的によって最適なポンプの種類は異なります。本記事では、真空ポンプの主な用途や、用途別におすすめの種類、選び方のポイント、さらに注目されているドライ真空ポンプの特長やメリットまで詳しく解説します。初めて真空ポンプの導入を検討する方はもちろん、現状の見直しをしたい方にも役立つ内容です。
さらに、ドライポンプを取り扱うメーカーもご紹介しますので、導入を検討している方はぜひ参考にしてください。
真空ポンプの主な3つの用途

真空ポンプは、特定の圧力環境を作り出すために欠かせない装置であり、さまざまな分野で活用されています。特に工業・研究・医療の現場では、それぞれのプロセスにおいて重要な役割を果たしています。
ここでは、真空ポンプの主な3つの用途について解説します。
以下では、それぞれの代表的な用途について詳しく解説します。
半導体・電子部品製造に不可欠
半導体や電子部品の製造工程では、微細な加工や成膜、エッチングなど、精密な制御が求められる作業が数多く存在します。これらの工程は高真空環境下で行う必要があり、真空ポンプが不可欠です。たとえば、真空蒸着やスパッタリングといった薄膜形成プロセスでは、安定した真空がなければ品質に影響が出ます。
また、製造ラインで使用される装置はクリーンルーム内に設置されるため、排気の清浄性も求められます。したがって、安定した真空性能とクリーン排気を両立する真空ポンプが必須とされています。
分析装置・研究用途での使用が一般的
質量分析計や電子顕微鏡、真空計測器など、各種分析機器や研究装置にも真空ポンプは多く使用されています。これらの機器では、サンプルを観察・測定する際に、外部の空気や水分が干渉しない環境を整えることが重要です。
たとえば、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)では、真空環境が観察精度に直結します。また、研究用途では、実験条件の再現性や測定の安定性を保つためにも真空の制御が求められます。したがって、精度の高い圧力制御が可能な真空ポンプが選ばれています。
医療・食品包装などの製造現場にも導入
医療分野や食品包装などの製造現場でも、真空ポンプは幅広く利用されています。医療では、真空吸引装置や滅菌装置などに搭載されており、安全性と衛生性が重要視される領域で活躍しています。
食品分野では、真空パックや真空冷却などに活用され、鮮度の維持や品質向上に貢献しています。これらの用途では、常に一定の真空状態を保ちつつ、対象物を傷つけない圧力制御が必要とされるため、運転の安定性や応答性の高いポンプが求められているのです。分野は異なりますが、安全性と信頼性という点では共通しています。
そもそも真空ポンプは主に3種類ある

真空ポンプは、用途や必要な真空度に応じてさまざまなタイプが存在しますが、大きく分けて『油回転式』『ドライ(無給油)式』『ターボ分子ポンプ』の3種類に分類されます。
油回転式は構造が比較的シンプルで高い真空度を得られるため、産業機器や一般的な製造工程で幅広く使用されています。ドライ式は潤滑油を使わずに真空を生成できるため、排気がクリーンで医薬品・食品・半導体など清浄度が求められる現場に適しています。ターボ分子ポンプは超高真空域での使用が可能で、電子顕微鏡や質量分析装置などの精密機器に利用されています。
それぞれの方式に特徴があり、目的や環境に応じた選定が不可欠です。
用途によって選ぶべき真空ポンプの種類

真空ポンプは、その使用目的や環境に応じて選定すべき種類が異なります。真空度の範囲、処理対象の物質、クリーン性の要求水準などに応じて、適したポンプを選ぶことで、装置の性能や製品品質に大きく影響するので、事前に把握しておくことが大切です。
ここでは、用途によって選ぶべき真空ポンプの種類について解説します。
以下で詳しく解説します。
半導体製造・電子部品製造
半導体や電子部品の製造工程では、高真空環境が必須となる工程が多く存在します。たとえば、CVDやPVDといった成膜プロセスや、エッチング処理では、安定した真空状態の維持が求められます。したがって、無給油で排気がクリーンなドライ真空ポンプや、超高真空域に対応できるターボ分子ポンプが使用されることが一般的です。
また、クリーンルーム環境での運用が前提となるため、微細な粉塵や油蒸気を出さない構造も重要です。長時間の連続運転に耐える耐久性と、低振動・低騒音といった作業環境への配慮も選定の基準となります。
医薬品・バイオ・食品業界
医薬品やバイオ、食品分野では、製品の安全性と衛生性が最優先されるため、真空ポンプには清浄性が強く求められます。オイルを使用しないドライ真空ポンプは、排気がクリーンであり、製品や装置のコンタミネーションを防止できることから多く採用されています。
たとえば、凍結乾燥装置や真空包装装置、医薬製造工程の滅菌・乾燥処理など、工程全体で安定した真空が求められる場面で活用されます。加えて、HACCPやGMPといった衛生管理基準に適合する設計であることも選定の条件となり、保守性やランニングコストの観点も考慮されています。
分析装置・研究開発
分析機器や研究開発の分野では、極めて安定した真空環境の維持が、正確な計測や再現性のある実験結果を得るために不可欠です。特に、電子顕微鏡や質量分析計、X線分析装置などでは、ターボ分子ポンプや油回転式真空ポンプが併用されることが多くあります。
また、前段にはドライポンプを組み合わせて使用することで、全体の真空システムとしての性能を高めています。真空度の精密な制御や振動の少なさも要求されるため、機器ごとの特性に適したポンプを導入することが重要です。異なる実験条件に柔軟に対応できる設計が評価され、使い勝手の良さも選定要素となります。
用途に合った真空ポンプの選び方は?

真空ポンプは製品ごとに性能や特性が異なるため、導入時には使用目的に応じた適切な選定が必要です。真空度の範囲、取り扱うガスの種類、運転条件などを考慮することで、装置の性能を最大限に引き出すことができます。
ここからは、用途に合った真空ポンプの選び方について解説します。
以下で詳しく解説します。
必要な真空度を確認する
真空ポンプを選ぶ際、最初に確認すべきなのが『どの程度の真空度が必要か』という点です。真空度には粗真空・中真空・高真空・超高真空といった分類があり、使用する装置や目的に応じて適切な圧力帯が異なります。たとえば、半導体の成膜工程では高真空が必要ですが、食品包装では粗真空で十分な場合があります。
目的の真空度を維持できるポンプを選定しなければ、装置の性能を十分に発揮できない可能性があるので注意が必要です。導入時は、プロセスに応じた真空度の確認が非常に重要です。
処理するガスの性質を考慮する
真空ポンプで排気されるガスの性質も、選定時の重要な判断材料です。腐食性や可燃性のあるガス、湿気を含んだガス、微粒子を含むガスなどは、ポンプの寿命や性能に影響を与える可能性があります。たとえば、腐食性ガスを扱う場合には、内部に耐食性の素材を使用したモデルを選ぶ必要があります。
また、水蒸気を含む環境では凝縮防止の設計が施されたポンプが適しています。処理対象のガスに応じた仕様の製品を選ばなければ、早期の故障や性能低下につながる恐れがあるので注意が必要です。
運転頻度や稼働時間を想定する
真空ポンプの選定においては、運転頻度や稼働時間も重要な要素です。たとえば、24時間連続稼働が求められる製造ラインでは、耐久性が高く、メンテナンスの少ないモデルが適しています。一方、実験室などで間欠運転が中心の場合は、短時間で立ち上がるタイプのポンプが適しています。
また、頻繁な起動停止がある環境では、起動性や耐久性に優れた構造の製品を選ぶことが大切です。運用パターンに合わない機種を選んでしまうと、故障リスクや運用コストが増加する恐れがあります。
汎用性が高く、注目を集めているのは『ドライ真空ポンプ』

ドライ真空ポンプは、潤滑油を使用せずに真空を生成できる構造が特長で、近年その汎用性の高さから多くの業界で注目を集めています。排気がクリーンであるため、半導体製造や医薬品、食品業界など清浄性が求められる環境に適しています。
また、オイル管理が不要なため、メンテナンスの手間や運用コストの削減にもつながります。加えて、静音性や省エネ性能にも優れており、作業環境の改善や環境負荷を減らせることも大きな強みです。
また、機種によっては腐食性ガスへの対応や高温環境での稼働も可能であり、製造・研究を問わず幅広い現場で導入が進んでいます。さらに、頻繁な起動停止や間欠運転にも対応できる設計が多く、信頼性と柔軟性を兼ね備えた真空ソリューションとして選ばれています。
ドライ真空ポンプのメリット

ドライ真空ポンプは、潤滑油を使用せずに真空を生成する仕組みのため、さまざまな分野で注目を集めています。清浄性や作業環境への配慮が求められる現場では、その特性を活かして導入が進んでいます。
ここからは、ドライ真空ポンプのメリットについて解説します。
以下でそれぞれのメリットについて、詳しく解説していきます。
オイルレスでクリーンな排気
ドライ真空ポンプは、潤滑油を使用せずに稼働する構造のため、排気中にオイルミストや油分が混入する心配がありません。したがって、半導体や医薬品、食品などの清浄性が求められる現場でも安心して使用することが可能です。従来の油回転式ポンプでは、油蒸気や油の逆流が問題となることがありましたが、ドライタイプではそのリスクが排除されます。
また、排気経路や真空チャンバー内に油が付着しないため、製品や装置の品質を維持しやすいという点も大きなメリットです。クリーンルームでの運用にも適しており、環境への配慮が必要な産業分野に広く採用されています。
メンテナンス性が高く、長寿命
ドライ真空ポンプは、オイル交換やフィルター交換といった定期的なメンテナンスが不要なため、保守管理にかかる手間やコストを大幅に軽減することが可能です。潤滑油を使わない構造により、劣化や汚染のリスクが減少し、長期間にわたって安定した性能を発揮できます。
また、内部の可動部品が摩耗しにくい設計が施されている機種も多く、装置全体の寿命延長につながるケースもあります。頻繁な稼働や長時間の連続運転が必要な現場では、メンテナンス回数の少なさも大きなメリットのひとつです。
安定稼働とコスト削減の両立を目指す企業にとって、有効な選択肢のひとつといえるでしょう。
幅広いガス種に対応可能
ドライ真空ポンプは、腐食性ガスや可燃性ガス、水蒸気を含むガスなど、さまざまなガス種の排気に対応できる機種が多く存在します。特に化学・医薬・エレクトロニクス産業などでは、扱うガスの性質が多様であるため、適応力のある真空ポンプが必要とされます。
ドライタイプの中には、耐食性素材を使用したモデルや、結露防止のヒーターを搭載したタイプなどがあり、ガスの特性に応じて安全かつ効率的な運転が可能です。用途に応じた最適なモデルを選ぶことで、工程全体の信頼性が向上します。特殊なガスを扱う環境でも安心して使える点は、大きな導入メリットといえるでしょう。
ドライ真空ポンプの導入は、信頼できるメーカー選びが重要!

ドライ真空ポンプは、長期間にわたって安定稼働が求められる装置であるため、導入時には信頼できるメーカーを選ぶことが極めて重要です。製品の性能や仕様だけでなく、導入後のサポート体制、部品の供給スピード、メンテナンス対応の有無なども選定基準になります。
特に医薬品や半導体といった高精度な制御が求められる分野では、トラブル時の対応力が生産性に直結します。豊富な導入実績があるメーカーであれば、業界特有の要件に対応できるノウハウを持ち、より適切な製品提案や技術支援が受けられる可能性が高まるでしょう。安定稼働とコスト最適化を両立するためにも、信頼性の高いメーカー選びが欠かせません。
信頼できるドライ真空ポンプメーカーの選び方

メーカーを選ぶ際は、単に知名度や価格帯だけで判断するのではなく、製品特性や実績、技術対応力など多角的な視点が必要です。選定ミスを防ぐためには、事前情報の確認が欠かせません。
ここからは、信頼できるドライ真空ポンプメーカーの選び方について解説します。
以下で詳しく解説します。
業界での実績や導入事例を見る
信頼できるドライ真空ポンプメーカーかどうかを判断するには、その企業がどの業界でどれだけの実績を持っているかを確認することが大切です。たとえば、半導体、医薬品、食品加工など、厳しい品質要件がある業界での導入実績があるメーカーは、製品の信頼性や耐久性が高い可能性があります。
また、具体的な導入事例やユーザーの声を公開している企業であれば、製品の運用イメージや対応力を事前に把握できます。実績は、単なる販売数ではなく『どの現場でどう活用されたか』を確認することが重要です。
製品ラインアップやカスタマイズ性をチェックする
真空ポンプの用途は多岐にわたるため、信頼できるメーカーであるかどうかを判断する際には、製品ラインアップの幅広さやカスタマイズ対応力も重要な要素です。たとえば、同じドライポンプでも、真空度のレンジ、処理できるガスの種類、設置スペースの制約など、現場ごとの条件に合った製品が用意されているかが問われます。
また、特殊環境や独自仕様への対応が可能なメーカーであれば、柔軟な運用設計が可能です。仕様書だけでは判断できない細かい調整や技術的なサポート力も、信頼性の指標となるでしょう。
導入後のサポート体制を確認する
ドライ真空ポンプは長期間にわたって使用される設備であるため、導入後のサポート体制が極めて重要です。万一のトラブル時に迅速な対応が可能か、部品供給体制が整っているか、定期メンテナンスや技術支援が受けられるかなどが確認すべき項目です。
特に24時間稼働の製造現場では、サポートの遅れが生産停止につながるため、サポート網の広さや対応スピードが選定基準となります。導入段階で『サポート付き契約』の有無や保守プランの内容を確認しておくことで、長期的な安定稼働を確保できます。
ドライ真空ポンプの導入でおすすめのメーカー3選
ドライ真空ポンプは、メンテナンス性や清浄性の高さから、さまざまな製造現場や研究用途で重宝されています。しかし、用途や設備環境によって必要とされる機能や性能が異なるため、導入時には信頼できるメーカー選びが欠かせません。
ここからは、業界内でも実績と信頼性のある3社をご紹介します。
以下でそれぞれの会社について詳しく解説します。
神港精機株式会社

神港精機株式会社は、真空機器や薄膜形成装置の分野で実績を重ねる、兵庫県神戸市の専門メーカーです。
項目 | 詳細 |
---|---|
会社名 | 神港精機株式会社 |
設立 | 昭和24年1月24日 |
住所 | 神戸市西区高塚台3丁目1番35号 |
HP | https://www.shinko-seiki.com/ |
特に注目されているのが、スクリュー式ドライ真空ポンプ『SST/SSXシリーズ』です。このシリーズは、オイルフリーでクリーンな排気を実現し、低振動・低騒音でありながら高い排気性能を発揮します。
実際に、大阪・関西万博をはじめとした先進的な現場への導入実績があり、品質の高さと技術の信頼性が評価されています。その他にも、スパッタリング装置やプラズマCVD装置、半導体向けのイオンプレーティング装置など、多彩な製品群を自社で開発・製造しており、研究開発用途から生産ラインまで幅広く対応しています。
国内に複数の支店と工場を構え、メンテナンスやアフターサポートも充実していることから、長期運用においても安心感があります。したがって、真空機器導入を検討している企業にとって、神港精機株式会社は信頼できる選択肢としておすすめです。
また、神港精機についてもっと気になる人は実際にお問い合わせしてみてはいかがでしょうか。
また、以下の記事にて神港精機について書いているので、参考にしてみてください。

株式会社アルバック

株式会社アルバックは、真空技術を中心とする多彩な製品とソリューションを展開する、国内有数の真空機器メーカーです。
項目 | 詳細 |
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会社名 | 株式会社アルバック |
会社住所 | 神奈川県茅ヶ崎市萩園2500番地 |
創業年数 | 昭和27年 |
公式サイト | https://www.ulvac.co.jp/ |
株式会社アルバックは、低・中・高真空領域すべてに対応可能な製品ラインナップを持ち、研究機関や製造業など、精密な制御が求められる現場で高い評価を得ています。
製品は信頼性と継続稼働性を重視した設計で、導入後のトラブルを最小限に抑える構造となっているため、安定した稼働を重視する企業にとっては非常に安心感のあるメーカーです。
また、技術サポートや保守体制もしっかり整備されており、初期の導入から運用まで一貫した支援が受けられます。したがって、高性能かつ包括的な真空技術を必要とする企業にとって、アルバックは非常におすすめできる存在です。
また、以下の記事ではアルバックの製品や特徴について紹介しているので、参考にしてください。

樫山工業株式会社

樫山工業株式会社は、ドライ真空ポンプの専業メーカーとして高い技術力を誇る企業で、長野県佐久市に本社を構えています。
項目 | 詳細 |
---|---|
会社名 | 樫山工業株式会社 |
会社住所 | 長野県佐久市根々井1-1 |
創業年数 | 昭和26年 |
公式サイト | https://www.kashiyama.com/ |
特に『NeoDryシリーズ』は、低騒音・省エネ・長寿命といった特長を持ち、多くの半導体や医療系の製造現場で使用されています。さらに、スキー場輸送設備や索道事業も手がけており、幅広いフィールドで技術力を発揮している企業です。
また、環境対応にも積極的で、太陽光発電設備の導入やBCP(事業継続計画)への取り組みなど、企業としての責任ある姿勢も高く評価されています。製品の性能だけでなく、企業の信頼性や持続可能性も重視したい場合に、樫山工業は非常におすすめできるメーカーです。
また、以下の記事では樫山工業の製品や特徴について紹介しているので、参考にしてください。

まとめ
本記事では、真空ポンプの用途別分類や選定ポイント、注目されているドライ真空ポンプの特長とメリットについて解説しました。
真空ポンプは、半導体製造・医薬品・食品・研究など幅広い分野で活用されており、用途ごとに求められる真空度や機能が異なります。特にドライ真空ポンプは、オイルレスでクリーン、メンテナンス性にも優れており、多くの現場で導入が進んでいます。
導入の際は、信頼できるメーカーを選ぶことが長期的な運用の成功につながるでしょう。