「真空ポンプの排気速度って何?」
「どのくらいの性能が必要なの?」
などと、真空ポンプを選ぶ際に悩む方も多いのではないでしょうか。排気速度は装置の処理時間や運転の安定性に大きく関わる重要な指標です。しかし初めて扱う方にとっては、単位や意味がわかりにくいことも多いでしょう。
そこで本記事では、真空ポンプの排気速度に関する基礎知識や単位、圧力との違い、用途ごとの排気速度の目安について解説します。最適な真空ポンプ選びに役立てたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
さらに、ドライポンプを取り扱うメーカーもご紹介しますので、導入を検討している方はぜひ参考にしてください。
真空ポンプの排気速度とは?

排気速度とは、真空ポンプが単位時間あたりにどれだけの気体を排出できるかを示す性能指標です。真空を作る速度や到達時間に直結するため、装置の処理効率に大きく関わります。数値が大きいほど、より短時間で空間を減圧できる能力が高いことを意味します。
ただし、実際の処理対象や目的によって必要とされる排気速度は異なるため、『速ければ良い』という単純な話ではありません。装置の容積や求める真空度に応じた適切な選定が求められます。
真空ポンプにおける排気速度の単位は?

真空ポンプの排気速度は、国際的には『L/min(リットル毎分)』や『m³/h(立方メートル毎時)』といった体積流量の単位で表されます。機器によっては単位が異なるため、見比べる際には単位の違いに注意が必要です。
以下に、代表的な排気速度の単位とその換算の目安をまとめました。
排気速度の主な単位と換算表
単位 | 説明 | 換算例 |
---|---|---|
L/min | 1分間に排気できる体積(リットル) | 1000L/min = 1m³/min |
m³/h | 1時間に排気できる体積(立方メートル) | 60m³/h ≒ 1000L/min |
このように、同じ排気性能でも単位が異なることで見かけ上の数値が変わるため、単位換算の理解は非常に重要です。
真空ポンプの『排気速度』と『圧力』は違う?
排気速度と圧力は、どちらも真空ポンプの性能に関する指標ですが、意味も用途も大きく異なります。
- 排気速度: 時間あたりの排出量(流量)
- 圧力: 真空の強さ、どれだけ空気を除去できたかの『状態』
混同されやすい2つの要素ですが、以下にその違いを分かりやすく整理した表を示します。
排気速度と圧力の違い
項目 | 排気速度 | 圧力(真空度) |
---|---|---|
意味 | 単位時間あたりの排出量(流量) | 空間内の残留気体量(圧力の低さ) |
単位 | L/min、m³/hなど | Pa(パスカル)、Torrなど |
関連性 | 圧力が低くなるほど排気速度も変化 | 排気速度が速くても圧力が下がるとは限らない |
用途の違い | 処理スピードやタイミングの調整 | 真空環境の精度や安定性を重視する場面 |
たとえば、短時間で減圧したい工程では排気速度が重要ですが、真空度を一定に保ちたい工程では圧力の安定性が重要になります。この2つを正しく区別し、両方の性能をバランスよく見ることが、真空ポンプ選定のポイントです。
真空ポンプの排気速度が重要な理由

真空ポンプの性能を評価するうえで『排気速度』は見落とせない重要な指標です。排気速度は、単に作業の早さだけでなく、装置全体の効率や安定性、真空度の品質にまで影響を与えます。ここでは、排気速度がなぜ重視されるのかを、3つの観点から具体的に解説していきます。
それぞれの視点を把握し、自社に適した真空ポンプの選定に役立てましょう。以下で詳しく解説します。
装置の処理時間(真空到達時間)に直結する
真空ポンプの排気速度が速いほど、装置内の空間を短時間で減圧できるため、真空到達時間が短くなります。たとえば、真空乾燥やパッケージング工程では、短時間で目標の真空度に達することで処理サイクルが早まり、生産性の向上につながります。
逆に排気速度が遅いと、装置の立ち上がりに時間がかかり、工程全体のスピードが低下してしまうので注意が必要です。処理時間の短縮は、1回ごとの差が小さくても、日々の運用を重ねる中で大きな生産効率の差になります。
装置や工程の安定運転に影響する
排気速度は、装置が一定の真空度を維持しながら安定運転を行えるかどうかにも関係しています。処理中にガスが発生する工程では、排気速度が不足していると圧力が安定せず、装置の稼働に悪影響を与える可能性があります。
たとえば、真空蒸着や分析機器では、微細な圧力変動が品質や測定精度に影響を及ぼすため、一定の排気速度を確保することが求められます。安定運転のためには、瞬間的な排気能力ではなく、持続的な排気性能の高さが重要です。
真空度の不足や処理が遅れるリスクがある
排気速度が不足していると、予定していた真空度に達しなかったり、想定よりも処理に時間がかかるリスクがあります。これは、装置内部に残るガスや微粒子を適切に排出しきれないために起こる現象です。
特に、高真空や中真空領域を求められる用途では、わずかな排気性能の違いが作業結果に大きく影響することがあります。装置の能力を最大限に引き出すためには、設計上必要とされる排気速度を正確に把握し、それを満たせる真空ポンプを選ぶことが大切です。
【用途別】真空ポンプの必要な排気速度の目安

真空ポンプの排気速度は、使用する工程によって求められる数値が大きく異なります。必要以上に高性能な機種を選ぶとコストが無駄になり、逆に性能が不足していると処理効率や品質に悪影響を及ぼすことがあるので注意が必要です。
ここでは、代表的な用途ごとに必要とされる排気速度の目安をご紹介します。
それぞれの工程に適した排気性能を理解し、最適な機種選定に活かしましょう。以下で詳しく解説します。
真空乾燥・脱泡工程に必要な排気速度
真空乾燥や脱泡では、製品内部や表面に含まれる水分・気泡を効率よく除去する必要があります。そのため、比較的広い容積のチャンバーを短時間で減圧できる排気速度が求められます。
一般的には、100〜500L/min程度の排気速度が使用されるケースが多く、製品のサイズや量によって調整されます。排気速度が遅いと処理時間が長引くだけでなく、除去しきれない気泡や水分が品質不良の原因になる可能性もあります。短時間かつ安定した真空環境を構築できるポンプの選定が重要です。
真空搬送・真空保持に必要な排気速度
真空搬送や真空保持の工程では、ワーク(対象物)を吸着・移動させるために安定した負圧を維持する必要があります。この場合、瞬間的な高排気速度よりも、一定の圧力を安定して供給できる性能が重視されます。必要とされる排気速度は用途やサイズによりますが、一般的には50〜200L/min程度が目安です。
搬送中の吸着力が不安定になると、ワークの脱落や搬送ミスが発生しやすくなります。シンプルな構造で耐久性があり、連続運転に強いモデルが推奨されます。
分析機器・精密装置に必要な排気速度
分析機器や精密装置では、短時間で真空にすることよりも、安定した高真空状態を長時間維持することが重要です。排気速度は50L/min未満で十分な場合もありますが、真空度の変動が測定結果や製品精度に影響するため、ポンプの性能には高い信頼性が求められます。
装置によっては2段排気やブースターポンプとの組み合わせが必要になるケースもあります。使用環境や計測条件に応じて、過剰・過小のないバランスの取れた選定が不可欠です。
排気機能に優れているのは『ドライ真空ポンプ』

ドライ真空ポンプは、潤滑油を使用しないオイルレス構造のため、排気経路に油分が混入せず、常にクリーンで安定した排気性能を維持できます。構造がシンプルで可動部品も少なく、連続運転時の性能劣化が起きにくい点も特徴です。
また、ドライポンプは粗真空から中真空まで幅広い圧力帯に対応でき、初期の立ち上がりから安定運転に至るまでスムーズな排気が可能です。これにより、装置の処理時間短縮や真空度の安定に貢献し、多くの工程で採用が進んでいます。排気性能の高さと扱いやすさを両立したモデルといえるでしょう。
ドライ真空ポンプの主なメリット

ドライ真空ポンプは、オイルを使わない構造によって清浄性が高く、さまざまな業界で活用が進んでいます。近年ではメンテナンス性や静音性の面でも改良が進み、オイル式に代わる選択肢として注目されています。ここでは、ドライ真空ポンプが評価される代表的な3つのメリットを整理してご紹介します。
それぞれの強みに着目しながら、導入効果を検討していきましょう。以下で詳しく解説します。
オイルミストがなく、処理環境を汚さない
ドライ真空ポンプは潤滑油を使用しない構造のため、排気中にオイルミストが発生することがありません。オイル式ポンプでは、運転中に微細な油分が排気に混ざることで、排気管や作業空間の汚染につながるリスクがあります。
一方、ドライタイプは清浄性が高く、クリーンルームや食品・医薬品の生産ラインなど、衛生管理が重要な環境にも安心して導入することが可能です。また、オイルミストが原因となる装置への付着や製品への影響も防げるため、品質保持や装置寿命の面でも大きなメリットがあります。
構造がシンプルで排気性能が安定しやすい
ドライ真空ポンプはオイル供給系統を必要としないため、構造がシンプルで部品点数も少なくなります。この設計により、稼働中の部品摩耗や故障リスクが減り、長期的に安定した排気性能を維持しやすくなっています。
また、ポンプ内部の部品に対する油分の影響がないため、排気性能のバラつきや経時変化も起きにくく、製品ごとの品質ブレを防ぎたい工程にも適しています。構造が簡素である分、点検や清掃作業も効率的に行え、保守コストの抑制にもつながるでしょう。
設置性・静音性にも優れた高性能モデルが豊富
ドライ真空ポンプは、設置スペースがコンパクトに収まるモデルが多く、限られた空間でも無理なく導入できるという特長があります。さらに、オイル循環やミスト排出がないため運転音も静かで、研究室やクリーンルーム、オフィスに隣接した場所でも使用しやすい設計になっています。
最近では省エネ設計やモジュール型の製品も登場しており、必要な性能を確保しつつ、環境配慮や使い勝手を重視した製品選びも可能です。静音性と設置性を両立したい現場には最適な選択肢です。
ドライ真空ポンプの導入で気をつけるべきポイント

ドライ真空ポンプは高性能で多用途に対応できる一方、導入時の条件や設置環境を正しく把握しておかないと、期待した性能を発揮できない可能性もあります。導入後のトラブルを防ぐためには、事前の確認と計画が不可欠です。ここでは、導入時に注意すべき3つのポイントをご紹介します。
それぞれの観点を踏まえ、導入の失敗を未然に防ぎましょう。以下で詳しく解説します。
用途や圧力範囲に合った機種を選ぶ
ドライ真空ポンプは、粗真空から中真空まで幅広い圧力範囲に対応できるモデルが多くありますが、すべての用途に最適とは限りません。たとえば、高温ガスや腐食性ガスを扱う場合は、耐熱性・耐腐食性に優れた機種を選ぶ必要があります。
また、必要な排気速度や到達圧力が異なれば、それに応じた性能を持つ製品を選定しなければなりません。メーカーとしっかりヒアリングを行い、実際の運用条件に合致した仕様を満たしているかを確認することが、スムーズな導入と長期的な安定運転につながります。
設置環境や配管条件を事前に確認する
ドライ真空ポンプの性能を最大限に活かすためには、設置環境や配管条件の事前確認が非常に重要です。たとえば、周囲温度や湿度、排気ダクトの長さや配管の口径が適切でないと、排気効率や冷却性能に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、振動を最小限に抑えるための防振設計や、周囲への騒音対策を考慮した設置も必要です。狭いスペースでの設置や、既存設備との干渉も考えられるため、レイアウト設計を含めて事前の現場確認を行うことが、トラブルのない導入につながるでしょう。
導入後の保守・サポート体制も含めてメーカーを選ぶ
ドライ真空ポンプは、導入後も長期間にわたって安定稼働させる必要があるため、保守やアフターサポートの体制が整っているメーカーを選ぶことが重要です。万が一のトラブル時に迅速な対応が可能かどうか、消耗部品の供給体制や技術スタッフの派遣対応など、実際の運用に直結する項目を事前に確認しておきましょう。
また、導入時の説明資料や選定サポート、定期メンテナンス契約などが用意されているかどうかも、安心して使い続けるための重要なポイントです。単に製品スペックだけでなく、メーカーの総合的な対応力を評価することが大切です。
信頼できるドライ真空ポンプメーカーの選び方

ドライ真空ポンプを導入する際は、製品の性能だけでなく『どのメーカーを選ぶか』も非常に重要です。長期運用を前提とする設備だからこそ、導入後のトラブル対応や部品供給の迅速さ、技術サポートの充実度が信頼性を大きく左右します。
また、導入実績や使用業界での評価、導入前の丁寧なヒアリングと提案力もメーカー選定の大切な基準です。特に初めて導入する場合は、選定資料や技術サポートが整っているメーカーを選ぶことで、導入から運用まで安心して任せることができます。信頼できるパートナーを見極めることが、設備投資の成功につながるでしょう。
おすすめドライ真空ポンプメーカー3選

真空機器の選定においては、用途に合った性能だけでなく、製品の信頼性やメーカーの対応力も重要な要素となります。特にドライ真空ポンプは、クリーンな環境が求められる多くの業界で導入が進んでおり、製品ごとの特性を見極めることが導入成功のカギとなります。
ここでは、確かな実績と専門性を備えたメーカーを3社ご紹介します。
以下で詳しく解説します。
神港精機株式会社

神港精機株式会社は、真空技術を軸に多様な製品を提供している神戸市の製造企業です。
項目 | 詳細 |
---|---|
会社名 | 神港精機株式会社 |
設立 | 昭和24年1月24日 |
住所 | 神戸市西区高塚台3丁目1番35号 |
HP | https://www.shinko-seiki.com/ |
スクリュー式ドライ真空ポンプ『SST/SSXシリーズ』をはじめ、油回転式や水封式など、工程に応じた製品ラインナップが充実しています。特にSST/SSXシリーズは、省エネルギー性と安定排気に優れ、大阪・関西万博の展示装置にも採用されるなど、信頼性の高さが証明されています。
また、真空薄膜装置やイオンプレーティング装置なども開発しており、装置全体の設計に対応できるのも特長です。複数の拠点によるサポート体制も整っているため、製造現場における総合的な導入支援を重視する方におすすめできるメーカーです。
また、神港精機についてもっと気になる人は実際にお問い合わせしてみてはいかがでしょうか。
また、以下の記事にて神港精機について書いているので、参考にしてみてください。

株式会社アルバック

株式会社アルバックは、神奈川県に本社を置く真空技術の総合メーカーです。真空ポンプだけでなく、真空計・プロセスガスモニタ・成膜装置など、システム構築に必要なコンポーネントを一括して提供できる点が大きな強みです。
項目 | 詳細 |
---|---|
会社名 | 株式会社アルバック |
会社住所 | 神奈川県茅ヶ崎市萩園2500番地 |
創業年数 | 昭和27年 |
公式サイト | https://www.ulvac.co.jp/ |
ドライ真空ポンプは、低・中・高真空の各領域に対応した製品を揃えており、研究用途から製造ラインまで柔軟に対応可能です。公式サイト『ULVAC SHOWCASE』では、製品ごとの仕様や機能が分かりやすく整理されており、選定資料としても活用できます。
多様な用途に応じた最適な構成を検討する企業にとって、ワンストップで技術支援を受けられるアルバックは、非常に頼れる存在です。
また、以下の記事ではアルバックの製品や特徴について紹介しているので、参考にしてください。

樫山工業株式会社

樫山工業株式会社は、長野県佐久市を拠点に、ドライ真空ポンプを中心とした真空機器を展開する技術開発型企業です。
項目 | 詳細 |
---|---|
会社名 | 樫山工業株式会社 |
会社住所 | 長野県佐久市根々井1-1 |
創業年数 | 昭和26年 |
公式サイト | https://www.kashiyama.com/ |
樫山工業の『NeoDryシリーズ』や『MUシリーズ』は、潤滑油を使用しない構造でクリーンな排気を実現しており、半導体や電子部品の製造現場で高い信頼を得ています。騒音・振動の抑制にも配慮された設計により、快適な作業環境を支える機種としても高評価です。
また、索道設備や雪上搬送機器など、幅広い事業分野で培った機械技術を活かし、高精度で安定した製品づくりを実現しています。高い清浄度と長期安定稼働を両立した機種を探している方には、樫山工業の製品は非常に適した選択肢といえるでしょう。
また、以下の記事では樫山工業の製品や特徴について紹介しているので、参考にしてください。

まとめ
本記事では、真空ポンプの排気速度について、基礎知識から用途別の選定ポイント、そしてドライ真空ポンプの特徴や選び方までを解説しました。
排気速度は単なる性能値ではなく、処理時間や装置の安定性に直結する重要な要素です。用途に応じて必要な排気速度は異なり、過剰でも不足でも生産効率や品質に影響を与えるため、適切な機種選定が不可欠です。
また、ドライ真空ポンプはクリーン性・静音性・メンテナンス性に優れ、多くの現場で活用されています。導入に際しては、信頼できるメーカーと連携し、使用条件やサポート体制も含めて慎重に検討することが、後悔しない選定への第一歩です。