近年、ドライポンプが従来の油潤滑式ポンプに代わり、注目を集めています。ドライポンプはオイルフリーであるため、真空の性質を利用しながら油などの異物混入を防ぐことができます。
クリーンな真空状態で製品を開発することは、異物混入を防ぎ、高品質な製品を消費者に提供するうえで重要です。このような利点を持つドライポンプは、一体どのような原理で動作しているのでしょうか。
今回は、ドライポンプの基本的な原理について解説します。また、ドライポンプの種類とそれぞれの仕組みについても紹介し、ドライポンプを選ぶ際の注意点について説明します。
さらに、ドライポンプを取り扱うメーカーもご紹介しますので、導入を検討している方はぜひ参考にしてください。
そもそもドライポンプの原理とは?
ドライポンプは、油や液体を一切使用せず、クリーンな状態で気体の吸入、圧縮、排気を行う仕組みを持つ装置です。
一方で、従来の潤滑油式ポンプでは、ローター部分を潤滑油で滑らかにすることで、高速回転を可能にしていました。
しかし、潤滑油式ポンプでは、油が混入することで製品の質を低下させる問題がありました。このような課題を解決するため、機械的な力のみで気体の排気を行うドライポンプが開発されました。
ドライポンプの動作原理は、ローターの高速回転によって気体を吸入口から吸引し、圧縮・排出を行うものです。油を使用しないため、大気圧から高真空までクリーンな状態を維持できるだけでなく、定期的なメンテナンスがほとんど不要であるという利点があります。
代表的なドライポンプの種類と仕組み7選
ドライポンプには、それぞれの用途や使用する規模において、種類が分かれています。今回は7種類のドライポンプとその仕組みについて解説します。
以上の7種類のドライポンプとその仕組みについて詳しく見ていきましょう。
スクリュー型ドライポンプ
スクリュー型ドライポンプは、スクリュー状のロータがケーシングと呼ばれる内壁内を回転し、気体を吸い込み、圧縮、排出することで、真空状態を作り出す、オイルフリーの真空ポンプです。
具体的なスクリュー型ドライポンプの仕組みとしては、吸気、圧縮、排気の3つです。
吸気では、スクリューが回転し、ポンプ内部が真空状態になります。この真空によって、外部から空気が吸い込まれます。
次に、圧縮です。圧縮では、吸い込まれた空気が、スクリューの回転によって、その隙間で圧縮されることで、徐々に高圧になっていきます。最後に、排気です。排気では、圧縮された空気を排気口から外部に排出します。
ルーツ型ドライポンプ
ルーツ型ドライポンプは、2つのロータが互いに逆方向に回転することで、気体を吸い込み、圧縮して排出することで、真空状態を作り出す、オイルフリーの真空ポンプです。
具体的なルーツ型ドライポンプの仕組みは他のドライポンプと変わらず、吸気、圧縮排気の3つです。
他の型との大きな違いは、ロータが8の字をしていることです。そのロータがかみ合って回転し、圧縮ではポケットと呼ばれるところで圧縮されます。
また、ロータやケーシング内には油は使用していませんが、ギヤやベアリングには潤滑のために油を使用しています。シール構造を工夫することで、この潤滑油がケーシング内に入らないようにしています。
ダイアフラム型ドライポンプ
ダイアフラム型ドライポンプは、液体を輸送する時に、ダイアフラムという弾性体の膜を利用して液体を吸い上げ、吐き出すことで、真空状態を作り出すオイルフリーの真空ポンプです。
具体的な仕組みは、ダイアフラムが上下または左右に振動することで、吸気口から入った気体を排出口へスムーズに排出します。ほかの型との大きな違いは、ダイアフラムに使われる材質です。主にダイアフラム部分にゴムやフッ素樹脂が使用されています。
ゴムは液体を吸い上げる役割を果たすダイアフラムに弾性力と柔軟性を与えます。また、ゴムは耐薬品性や耐熱性が低いため、フッ素樹脂を組み合わせることで、薬品と熱に耐性が付与されました。
そのため、ダイアフラム型ドライポンプでは、腐食性に強い液体やガスに対応しています。
スクロール型ドライポンプ
スクロール型ドライポンプは、回転スクロールが固定スクロール内を回転し、吸気、圧縮、排出することで、真空状態を作り出すオイルフリーの真空ポンプです。
スクロール型ドライポンプの仕組みは、回転スクロールが固定スクロールの内側で回転することで始まります。この動きにより、両スクロール間に三日月型の空間が形成され、外部から空気を取り込む役割を果たします。
取り込まれた空気は、回転スクロールの動きによって徐々に中心部へと押し込まれながら圧縮されます。最終的に、圧縮された空気はスクロールの中心部にある排気口を通って排出されます。
ほかの型との大きな違いは、回転スクロールと固定スクロールがあることです。また、楕円形スクロールは三日月型のスクロールと比べて、滑らかな形状で、振動数と騒音が少ないことが特徴です。
振動ピストン型ドライポンプ
振動ピストン型ドライポンプは、モーターと直結した偏芯カムが回転することにより、ピストンの上下運動で、吸気と排気、圧縮を行い、真空状態を作り出すオイルフリーの真空ポンプです。
振動ピストン型ドライポンプの仕組みは、吸気、圧縮、排気の3つの工程で構成されています。
まず「吸気」では、ピストンが上昇することでシリンダー内の圧力が低下し、外部の空気が吸入口を通って吸い込まれます。次に「圧縮」では、ピストンが下降することで吸い込まれた空気が圧縮されます。
最後に「排気」では、圧縮された空気が排気口を通じて排出されます。この一連の動作を繰り返すことで、振動ピストン型ドライポンプは効率的に気体を移送し、クリーンな真空を実現します。
回転翼型ドライポンプ
回転翼型ドライポンプは、ロータがシリンダと接触しながら回転し、吸気口から吸引されたガスを圧縮、排気口から排出することで真空状態を作り出すオイルフリーの真空ポンプです。
回転翼型ドライポンプの仕組みは、吸気、圧縮、排気の3つの工程に分かれています。
まず「吸気」では、ローターの回転によってベーンとシリンダーの隙間が広がり、その間に空気が取り込まれます。次に「圧縮」では、ローターが回転を続けることで、ベーンとシリンダーの隙間が狭まり、取り込まれた空気が圧縮されます。
最後に「排気」では、圧縮された空気が排気口を通じて排出されます。この一連の流れを繰り返すことで、回転翼型ドライポンプは効率的に空気の吸入と排出を行います。
クロー型ドライポンプ

クロー型ドライポンプは、クローと呼ばれる爪のようなローターが互いに接触しないように回転することで、気体を吸入、排出することで真空状態を作り出すオイルフリーの真空ポンプです。
クロー型ドライポンプの仕組みは、吸気、圧縮、排出の3つの工程で構成されています。
まず「吸気」では、爪のような形をした2つのクロー(ローター)が回転し、その間に空気を取り込むための空間が作られます。この空間が広がることで、外部から空気が吸い込まれます。
次に「圧縮」では、クローが回転することで空間が狭まり、内部の空気が圧縮されます。
最後に「排気」では、圧縮された空気がクローの動きによって排気口から排出されます。爪状のクローの形状により、ポンプは効率的に真空度を高め、クリーンな真空環境を実現します。
ドライポンプの選び方5選
前述ではドライポンプの種類と仕組みについて説明しましたが、選ぶ際にはいくつかのポイントに注意が必要です。ここでは、ドライポンプを選ぶ際に押さえておくべき5つのポイントをご紹介します。
ドライポンプの選び方を詳しくみていきましょう。
用途を明確にする
ドライポンプを選ぶ際、まず最初に用途を明確にすることが重要です。用途をはっきりさせることで、自分のニーズに最適なドライポンプを選べるようになります。
例えば、スクリュー型ドライポンプは太陽電池製造の工程に適しており、ダイアフラム型ドライポンプは医薬品や化学薬品の取り扱いに使用されます。このように、ドライポンプは用途や業界に応じて適切な種類が決まっています。
適していないポンプを選んでしまうと、製造工程で異物混入やパーティクルの発生が起こり、製品の品質に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、自分の用途に合ったドライポンプを選ぶことが、製品の品質を確保する上で欠かせません。
性能を比較する
2つ目は、性能を比較することです。なぜなら、それぞれのドライポンプによって真空度や排気量に違いがあるからです。
例えば、スクリュー型ドライポンプでは、高い真空度を実現できますが、ルーツ型ドライポンプでは、中程度の真空しか実現できません。他にも、ルーツ型ドライポンプは排出量が高い特徴はありますが、ダイアフラム型ドライポンプでは、排出量に制限があります。
また、同じドライポンプでも違いがあります。スクリュー型ドライポンプは、大型なものもあれば小型なものもあり、その性能も様々です。
このように、ドライポンプの性能を比較することで、用途に適したドライポンプを選ぶことができます。
種類を把握する
3つ目は、ドライポンプの種類を把握することです。ドライポンプには、スクリュー型、ダイアフラム型、スクロール型など、さまざまな種類が存在します。それぞれの種類には異なる特徴や用途があり、それらを適切に理解することが重要です。
種類ごとの違いを理解しておけば、どの場面でどのポンプを使うべきか明確になり、効率的に選択ができるようになります。
メーカーを比較する
4つ目は、ドライポンプのメーカーを比較することです。ドライポンプを製造するメーカーは世界中に多数存在し、それぞれが異なる特徴や製品ラインナップを持っています。
メーカーごとに扱うドライポンプの種類が異なることや、同じ種類でも性能や価格が異なる場合があります。これは、多くのメーカーが特定の用途に特化して製品を開発しているためです。
例えば、医薬品分野向けには腐食性の液体やガスに耐えるドライポンプが必要とされることが多いため、このような用途に応じた製品を提供しているメーカーを選ぶことが重要です。
ドライポンプを適切に選ぶためには、価格や性能、用途への適合性を踏まえてメーカーを比較検討する必要があります。
コストを検討する
5つ目は、ドライポンプのコストを慎重に検討することです。
ドライポンプは種類や性能によって価格に大きな幅があります。高性能な製品や耐腐食性のあるものは数千万円に達する場合もありますが、シンプルで小型な設計のものは数十万円程度で購入可能です。
例えば、食品製造の真空包装や食品乾燥では腐食性ガスが発生しないため、ローターなどに特殊な材質を使用する必要がありません。この場合、高価な仕様を避けることでコストを抑えることができます。
用途に応じて必要な性能を見極め、不要な機能を省いた製品を選ぶことで、コストパフォーマンスの高いドライポンプを見つけることが可能です。価格の幅が広いからこそ、慎重にコストを検討することが重要です。
ドライポンプを取り扱うメーカー3選
ドライポンプは、取り扱う会社と代表的な商品があります。今回はその会社を3つ紹介します。
以上の3社について、それぞれの特徴を参考にしてみてください。
神港精機
項目 | 詳細 |
---|---|
会社名 | 神港精機株式会社 |
設立 | 昭和24年1月24日 |
住所 | 神戸市西区高塚台3丁目1番35号 |
HP | https://www.shinko-seiki.com/ |
1つ目に紹介するのは、神港精機です。神港精機は、1949年の創業以来、真空技術を中心に高い専門性を持つ製品を提供しています。真空ポンプの国産化を実現した1951年を皮切りに、真空技術を核とした製品開発で日本市場においても高い評価を得ています。
特に、”むき出しタイプ”のドライポンプ(SST/SSXシリーズ)は、優れた耐久性やカスタマイズ性を備え、汚染リスクの高い用途にも対応可能な信頼性を誇ります。他のメーカーが不得手とする、腐食性物質吸引や異物・凝縮性ガス・液体の吸引に強い設計が特徴で、洗浄可能な構造や特殊環境への適応力も神港精機ならではの強みです。
老舗として真空技術を追求しつつ、現代の産業ニーズに応じた製品開発に取り組む神港精機。常にお客様の期待を超える価値を創造し、ものづくりの未来を切り拓いています。長年の実績と経験から開発されたドライポンプを使いたい方は、ぜひ神港精機に一度問い合わせてみましょう。
神港精機に関することは以下の記事も参考にしてみてください。

アルバック機工
項目 | 詳細 |
---|---|
会社名 | アルバック機工株式会社(ULVAC KINO) |
設立年月日 | 1971年6月25日 |
住所 | 東京都港区港南2丁目3-13品川フロントビル5階 |
HP | https://ulvac-kiko.com/ |
2つ目に紹介するのはアルバック機工株式会社です。こちらの会社は、ドライポンプのみを作っている会社になります。そのため、ドライ真空ポンプの多くの型を取り扱っているのが特徴です。
例えば、ルーツ型ドライポンプだけでなく、スクリュー型やスクロール型、ダイアフラム型と他にも4つの型を扱っています。多くのドライポンプの種類を取り扱うことで、多種多様な用途に合わせた製品を各業界へ届けることができるようになっています。
また、ドライポンプの種類だけでなく、ひとつひとつのドライポンプにも数種類のシリーズがあり、その用途は様々です。そのため、細かい作業や大掛かりな作業工程などに対応することができます。
アルバック機工に関することはこちらの記事も参考にしてみてください。
荏原製作所
項目 | 詳細 |
---|---|
会社名 | 株式会社 荏原製作所 |
設立年月日 | 1920年5月 |
住所 | 東京都大田区羽田旭町11-1 |
HP | https://www.ebara.co.jp/ |
3つ目に紹介するのは荏原製作所です。
荏原製作所は、石油やガスプラント向けのポンプや排水機用ポンプを中心に、国内外で事業を展開する企業です。世界中に117拠点を持ち、幅広い顧客のニーズに応じたポンプの開発・製造を行っています。
代表的な製品として、カスタムポンプがあります。この製品は、エネルギー関連施設や石油プラントなど特殊な環境に対応するため、材質やロータをカスタマイズ可能です。
さらに、荏原製作所はアフターサービスにも力を入れており、部品供給や修理、改造、メンテナンスを通じて、提供後も長期的に安全で安定した運用をサポートしています。この取り組みにより、危険を伴う業界でも安心して使用できる製品を提供しています。
まとめ
今回はドライポンプの仕組みについて紹介しました。
ドライポンプは、従来の潤滑油式ポンプの課題を克服し、油を一切使用せずに真空状態をつくりだせるポンプです。現在、ドライポンプには主に7つの種類があります。
ロータの形状によって種類が分かれ、スクリュー型やルーツ型、クロー型など、それぞれ異なる特徴を持っています。用途に応じたドライポンプを選ぶ際には、性能や種類を比較するとともに、適切なメーカーを選ぶことが重要です。
本記事で紹介したメーカーの中では、神港精機が凝固性ガスや粉体など、従来のドライポンプが苦手としていた液体や気体にも対応する製品を開発しています。また、アルバックや荏原製作所は、各業界に特化したドライポンプを提供しており、多様なニーズに応えています。
このように、ドライポンプは多くの種類があり、幅広い業界で利用されています。本記事を参考に、貴社の用途に最適なメーカーや製品を選び、業務の効率化や成果の向上にお役立てください。